20.東京

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 たらふくうまい肉を食べましょう、とカナちゃんが誘ったので、東京駅で待ち合わせた。
 駅舎の外で待っていたカナちゃんは、なんだかいつもより口数が少なく、笑顔にもいつもはない影が差しているように見えた。
 シロガネヨシが揺れる道を歩き、どこにでもあるチェーンの居酒屋に入った。

「何かあったの」
 店に入ってからも、カナちゃんの笑顔はどこかぎこちない。牛ヒレ肉の鉄板焼とともに運ばれてきた2杯目のビールを一口飲んでから、聞いた。
「……エデンって、どんなところなんですかね」
 3杯目のビールを飲み干してから、カナちゃんは呟いた。
「……どんなところかは知らないけど、不安や心残りがあると、行けないところらしいよ」
 私は、冷めないうちに牛ヒレ肉を一枚つまんでから答えた。

 カナちゃんの旦那は、あの人やサエコさんと同じく、何も言うことなくエデンへ向かったという。翌週には、いっしょに歌劇を観に行く予定もあったらしい。
「よくあることだけど、何度あっても慣れないんですよね」
 確かにこの街に長く暮らしていると、親しい人がエデンへ旅立つ経験をしていない方が珍しい。
「そうね、私もこの間、知人が行ったわ」
 サエコさんのことを思い出しながら、運ばれてきた豚肉のソテーをつまんだ。
「えっ、もしかして息子さんとかですか」
 カナちゃんの声は、心なしか少し弾んで聞こえた。
「知人って言ったでしょ。息子はいないわよ。行ったのは親しい……、親しい友人」
 いない、と言った自分の言葉にどこか不安を覚える。これまで起こったことすべてを記憶している自信など、あるはずもない。
「そうなんですね。息子さんだったら、これから二人で嫁姑ごっこができるかと思ったのに」
 カナちゃんは今度は残念さを隠さずに、鶏の唐揚げを頬張った。

 その日は肉も食べたが、お酒もしこたま飲んだ。私も飲んだが、カナちゃんはそれ以上に飲んだ。お酒に強い子だと思って見ていたが、トイレから帰ってきたらぐうすか寝ていた。
 起きそうにないし、起きても家には帰れなさそうなので、お会計とともにタクシーを呼んでもらった。
 カナちゃんがどこに住んでいるのか知らないので、仕方なく連れて帰ることにする。とはいっても私の家は人を泊められるような部屋ではないので、サエコさんの家を借りるすることにする。家の合鍵は、まだ持っていた。

 サエコさんの家の前にタクシーが着き、カナちゃんを揺り起こす。少なくとも家の中までは歩いてもらわないといけない。
 家の中は、少しホコリの臭いがしたものの、きれいに片付けられていた。サエコさんは掃除や洗濯をすべてしてから、この家を出ていったようだ。
 カナちゃんを壁に寄りかからせて、客間に布団を2組敷く。カナちゃんは敷かれたばかりの布団に大の字になる。電灯を消して、私はその隣の布団に、そっと入る。

「さっき言った嫁姑ごっこ、本当にやりましょうよ」
 うつ伏せのままだからか、くぐもった声でカナちゃんが呟く。
「それもいいかもね」
 電灯にぶら下がって揺れる紐を眺めながら、呟きを返す。
 秋の虫が一匹、鳴いていた。
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