音楽会を開くので、招待する。
切手も宛名もない茶封筒の中の便箋には、手書きの会場案内図とともに、角張った文字でそう書かれていた。
有楽町で電車を降りて、指定された場所に向かうと、数本の落葉樹に囲まれた小さな公園があった。
公園には誰の姿もなく、私はゾウの形をした遊具に腰をかけた。
しばらくすると、顔の半分を口ひげで隠した中年男性がやってきた。今日はカップ酒は飲んでいないらしい。
トムは軽く手をあげてこちらに合図をすると、持ってきたチェロのケースをそっと地面に下ろし、簡素な折り畳み式の椅子を広げて腰を下ろした。
鳥の鳴き声を遠くに聞いていると、ゾウの隣で静かにたたずむキリンの遊具に、エメラルドグリーンのワンピースを着た少女が腰をかけた。髪には柘榴色の飾りが輝いている。マリは黄色いリュックからハッカ飴の袋を取り出し、小さな手で数個の飴玉をつかんで私にくれた。
やがて似合わない無精ひげを生やした青年が、ギターケースを担いでやってきた。青年は私達に軽く会釈すると、ギターケースを木に立て掛け、その根本に座った。
うろこ雲が青空にもっとも美しく陰影を濃く描くころ、ヴァイオリンケースを抱えた金髪の青年が小走りで公園に入ってきた。
トムは深くうなずくと、チェロのケースに手をかける。無精ひげの青年も、立ち上がりギターケースを持ち上げる。金髪の青年は二人のもとに駆け寄りながらマリに目をやり、曖昧な笑顔を見せる。それを受けてマリは、屈託なく笑う。
それぞれの楽器のケースが開かれるとき、五人の間に少し緊張が走った。ケースの中には、バナナも薄力粉も、もちろんホットプレートもフライパンもなく、しっかりと楽器が収められていた。
三人が奏でる音楽は、原曲を知らなくてもそれぞれが音程を外していることがなんとなくわかった。しかし遠い国の曲のようであると同時にどこか懐かしさも感じる調べに耳を澄まし目をつぶれば、どこまでも広がる草原が見えた。マリが隣で鼻唄を合わせている。
いくらもしないうちに公園には人が集まり、思い思いに手を取り合って踊ったり、好き勝手な詞をつけて歌っていた。気がつけばチェロを弾くのは黒縁眼鏡をかけたスーツ姿の男性で、トムは私の隣で楽しそうに手を叩きながらカップ酒をすすっている。金髪の青年はヴァイオリンを聴衆の一人に託し、歌う少女に右手を差し出す。
マリは目を細めて立ち上がり、その大きな手に軽く自らの手を添えた。
目をつぶれば、草原には一輪の黄色い花が揺れていた。