移動遊園地が来たと聞いて、カナちゃんと浜松町まで行ってみた。
遊具が並ぶ広場を見渡すと、はしゃぐ子供の姿は見当たらず、散歩ついでに立ち寄ったと思われる老夫婦が何組かいるのみだった。遊園地の主催者もそれを見越してか、ジェットコースターのような激しいアトラクションはなく、観覧車やメリーゴーラウンドなどの穏やかな乗り物ばかりが置かれている。
しかし今のところ利用者はいないようで、アトラクションに乗り込むのがおっくうな私たちも、キッチンカーでホットココアを2つ頼み、店先のベンチに落ち着いた。
「遊園地で一番好きな乗り物って、何ですか」
カナちゃんがホットココアに息を吹き掛けながら、尋ねてきた。
私は広場の中を見回して、「あれかな」と、コインで動くパンダの乗り物を指差した。
「そういえばあの人もパンダが好きでしたね。いっしょに住んでいたとき、三人でよく一緒に動物園に行きましたっけ」
思い出話を創作しながら、二人はそれぞれ違う顔を思い浮かべている。きっとカナちゃんはエデンに行った夫を、私はいた記憶のない息子とやらを通して、やはりあの人の顔を見ていた。カナちゃんの提案した遊びは、こんな風にゆるく続いていた。
それぞれ、お互いがどこに住んでいるのかすら、いまだ知らない。
「まあパンダでなく、隣のポニーでもいいんだけど。遊園地の中で、乗る場所と降りる場所が違う乗り物って少ないから」
カナちゃんはこくこくと神妙に頷いてから「でも、ものすごい大きなメリーゴーラウンドで、同じところをぐるぐる回っていることに気がつかないくらい大きなメリーゴーラウンドだったら、どうですか」と、首を傾げた。私は、「それならいいかもね」と答えた。
少し冷めたココアをぐいと飲み干したカナちゃんはすくと立ち上がり、私の手を引きメリーゴーラウンドの前までやって来た。
カナちゃんに促され、一匹の馬に座る。カナちゃんは一つ前を走る馬に跨がった。二人の様子を確認してから、係員がスイッチを押し、馬は上下しながら前の馬の尻尾を追いかけ始めた。
三匹の馬しか走らない小型のメリーゴーラウンドは、回転している間、オルゴールで勇壮なメロディーを奏でた。
やがてオルゴールは止まり、私はプラスチック製の固い馬の背から下りた。カナちゃんはお尻をなでている私の手をつかむと、次はパンダとポニーのところまで引いて行き、二匹の背中にコインを入れた。
広場の出口で係員に呼び止められるまで、二人を乗せた二匹の動物は、ゆっくりと歩き続けた。定位置へと連れ戻される相棒たちを見送りながら、彼らと共に歩んだ移動距離と投入したコインの枚数を比べて、目を見合わせた二人はけたけたと笑った。東の空には、薄く星が見え始めていた。